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岡山地方裁判所 昭和58年(ワ)775号 判決

原告

赤岩明

右訴訟代理人弁護士

水谷賢

被告

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

松岡一章

右指定代理人

周藤雅宏

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和五八年五月二三日に原告に対してした停職四月の懲戒処分が無効であることを確認する。

2  被告は原告に対し、金五〇万三八三二円及びこれに対する昭和五八年一二月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、昭和四五年三月一日、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。なお、日本国有鉄道改革法及び日本国有鉄道清算事業団法の施行により昭和六二年四月一日に被告となる。)に準職員として採用され、同年九月一日に職員となり、国鉄岡山鉄道管理局岡山保線区瀬戸支区に保線管理係として勤務するとともに、国鉄労働組合(以下「国労」という。)岡山地方本部第一支部施設分会に所属する労働組合員であった。

2  本件懲戒処分の経緯

(一) 国鉄は、昭和五八年四月二八日、原告に対する停職四月の懲戒処分を決定し、同月三〇日付内容証明郵便で同処分の意思表示をし、右意思表示は、同年五月二日頃、原告に到達した(以下これを「本件懲戒処分」という。)。

(二) 原告は、本件懲戒処分を不服として、「懲戒の基準に関する協約」に基づき、直ちに異議の申立てをしたところ、国鉄は、同年五月一三日、一九日の二度にわたって右協約所定の弁明又は弁護の手続を取ったものの、原告の弁明を一切採用せず、同月二三日、原告に対して停職四月の懲戒処分をし、本件懲戒処分が確定した。

3  本件懲戒処分の無効事由

(一) 本件懲戒処分の理由は、前記内容証明郵便によれば、原告が「昭和五八年三月一一日山陽本線岡山・庭瀬駅間において、ロングレール更換工事中、業務の執行を妨害し、責務を尽さず、よってその正常な運営に支障を生じさせたことによる。」というものである。さらに、被告は、本件懲戒処分には次のとおりの懲戒事由があると主張している。

(1) 昭和五八年三月一一日に行われた国鉄山陽本線下り線岡山操車場駅、庭瀬駅間(神戸起点一四九キロ三八五メートルから一四九キロ五八四メートルまで)の延長一九九メートルのロングレール更換工事(以下「本件工事」という。)において、原告は、旧伸縮継目係の作業員として本件工事の分担作業を行うことになったが、その本作業である線路閉鎖工事中の木製枕木の犬釘抜取り作業に関し、同日午前一〇時三五分頃、同じく旧伸縮継目係の浜岡勝と原告の二人だけが右作業に従事し、本来右作業に従事すべき職務のある門型係六番の三村明彦と竹原功、同七番の香西千秋と平松実の四名は、PC枕木(ピアノ線入りコンクリート枕木)のボルトの撤去作業を終了しただけで、原告らの右作業を傍観しており、右作業は予定時刻より遅れていた。そこで、本件工事の総指揮者の代理であった国広次男助役(以下「国広助役」という。)は、本件工事の監督者であった棚田公夫助役(以下「棚田助役」という。)に対して、右四名の門型係作業員を右作業に当たらせるよう指示し、この指示に基づき、棚田助役は、門型係六番、七番の属する班の班長である金田俊夫(以下「金田班長」という。)に対して、右四名に右作業に従事するよう指示することを命じるとともに、自らも右四名に同様の指示をした。しかし、原告は、三村と共に、「わしらは協力せんのだ。別々にするのだ。脇からガチャガチャ言うな。黙っとれ。」と怒鳴り返し(以下これを「第一次暴言行為」という。)、三村以外の門型係作業員三名が右作業に入ろうとするのを、三村が「わしらはせんのだ。」と怒鳴り、右三名が右作業を行うことを妨害した。

(2) さらに、本件工事の終了予定時刻(同日午前一一時七分)が近づいた午前一一時五分頃、棚田助役は金田班長に対し、右四名の門型係作業員にPC枕木のボルト締結作業が終り次第、木製枕木への犬釘打ち作業を行うよう指示することを命じるとともに、自らも右四名に対し同様の指示をしたところ、三村が「わしらは旧伸縮の仕事をすることになっとらん。」と叫んで棚田助役に詰寄り、原告は「犬釘打ちはわしらだけでやるのだ。助役黙っとれ。ガタガタ言うな。」と怒鳴って(以下これを「第二次暴言行為」という。)棚田助役に近寄るなどした。

このように、原告と三村の各暴言行為があったため、本件工事は、終了予定時刻を二一分超過した同日午前一一時二八分に終了したが、その結果、岡山駅午前一一時一〇分発であった特急やくも五号に二〇分の遅れが生じるなど、合計一四本の列車の運行に二一分から二・五分の遅れが発生した。

(3) 原告の右各暴言行為は、日本国有鉄道法三一条一項一号所定の業務上の規程である日本国有鉄道就業規則六六条二号(責務を尽さず、よって業務に支障を生ぜしめたとき)、三号(上司の命令に服従しないとき)、六号(故なく職場を離れ又は職務につかないとき)及び一五号(職務上の規律をみだす行いのあったとき)に該当するとともに、同法三一条一項二号(職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合)にも当たるものである。

(二) しかし、本件の事実経過は以下のとおりであり、被告主張の懲戒事由は存在しない。

(1) 原告は、昭和五八年二月頃、次のとおりの本件工事計画を知らされた。

ア 工事名称

山陽本線岡山操車場(以下「岡操」という。)・庭瀬駅間下り線ロングレール更換工事

イ 工事目的

五〇キログラムレールから六〇キログラムレールに更換

ウ 工事間合

九二七M列車から一〇三五M列車(午前一〇時一四分から同一一時一二分)

エ 列車徐行

四三七M列車から三三九M列車(午前九時一六分から同一一時一八分)

オ 信号関連 有

カ 工程

〈省略〉

同一一時四五分 現地解散

キ 任務分担

保線区岡操支区 二五名

同岡山支区 一四名

同瀬戸支区 一六名

同和気支区 一九名

総作業職員数 七四名

右レール更換は、総指揮、安全責任者、工事監督者、作業責任者、連絡記録係、列車見張、班員(一班ないし三班)、伸縮係(新旧)、継目係、徐行信号機係、自運者機械係、救護班、予備員の任務分担の下に計画され、原告は右旧伸縮係に、三村は右二班にそれぞれ所属し、六番の門型の作業分担であった。原告の担当する旧伸縮の作業内容は、原告と浜岡の二名が、約七・三五メートルにわたって敷設された一二本の木製枕木に、レールの外側に二本、内側に一本の犬釘で固定されているレールを撤去するために、右犬釘を抜き取ってレールを更換し、その後に再びレールの外側と内側に各一本ずつ犬釘を打ちつけて右レールを固定するものであった。また、三村の担当する門型の作業内容は、三村と竹原功の二名が岡操駅方面から順次数えて六番目の門型を担当するもので、一つの門型は約一四メートルの距離のレール部分を担当し、このレールの下に敷設されたPC枕木に、レール一本につきその外、内側各一箇所に締結されたボルトを取り外し、レール更換をしたうえで、再び新しいレールを同様にレールの外、内側各一箇所をボルトで締結し、右レールを固定するというものであった。

(2) このように、本件工事では二名の作業職員が旧伸縮作業を担当する旨計画されたが、従来の工事では、旧伸縮作業はすべて四名の作業職員が担当しており、本件工事において、初めて旧伸縮の作業職員が二名に削減された。このことを知った原告の上司である瀬戸支区作業長の金田班長は、昭和五八年三月七日、九日、一〇日に行われた本件工事の事前打合せの席上で、棚田助役らに対し、従来どおり四名にして欲しい旨申し入れたが、聞き入れられず、右旧伸縮作業は二名で強行されることになった。なお、右事前打合せの段階では、三村らが担当する六番の門型職員に対して、原告らの担当する旧伸縮部分の作業を手伝うようにとの当局からの指示は全くなかった。

(3) 右工事計画では、昭和五八年三月一一日午前九時一五分に全作業職員が現地に集合する予定であったが、交通渋滞で岡山支区の作業職員の到着が遅れたため、全作業職員が現地にそろったのは、予定時刻から一五分遅れた同日午前九時三〇分であった。

(4) 全作業職員の点呼が終了した同日午前九時三五分から、右作業職員らは、それぞれ担当する準備作業を開始したが、この段階で、右準備作業の着手時期は、予定より二〇分遅れており、右準備作業が終了したのは、同日午前九時五五分であった。しかし、原告らが担当した準備作業は、右時刻までに終了せず、午前一〇時一〇分過ぎまで継続したが、それでも完全に終了させることはできなかった。なお準備作業とは、旧伸縮係では、受持ちの一二本の枕木のうち三本に一本の割合で犬釘を抜き、他の枕木の犬釘が本作業で抜けるか否かを確認するため、実際に犬釘を浮かしてみて再び打ち込むといういわゆる味きき作業を実施することをいい、門型係では、同様に受持ちの枕木のうち三本に一本の割合でPCボルトを抜き取り、他の枕木のPCボルトは緩めて軽く締結する作業を実施することをいう。

(5) 原告らが担当した準備作業が同日午前九時五五分に終了せず、右のとおり遅れた原因は、本来であれば本件工事現場を受け持つ岡操支区が、通常は工事の一、二週間前に旧伸縮部分等のいわゆる味きき作業を終えておくべきであるのに、本件工事ではこれを怠っていたからである。この味きき作業をしないままで当日の準備作業を実施して初めて原告らの担当した旧伸縮部分の犬釘が非常に抜きにくいことが判明した。さらに、右のとおり、旧伸縮部分の作業職員が二名削減されたことも準備作業の遅れた原因である。

(6) 同日午前一〇時一〇分過ぎに旧伸縮の準備作業が終了し、続いて同日午前一〇時一九分に線路閉鎖工事が開始され、本工事が開始された。そこで、原告は、旧伸縮の本作業(旧伸縮部分のすべての枕木に打ちつけられた犬釘を抜き取り、レール更換をして再び犬釘を打ちつける作業)に着手し、三村は、門型の本作業(すべてのPC枕木に締結されたPCボルトを外してレールを吊り上げ、新レールを入れて更換し、更換後の新レールをPCボルトにより再び締結する作業)に着手した。

(7) 午前一〇時三〇分過ぎには、三村は、同人らが担当しているPCボルトの締結装置の撤去を終了し、次に予定されていたレール更換ができる態勢で待機していたが、この時点では、原告らの担当する旧伸縮の犬釘の抜取り作業は、抜きにくかったため終了していなかった。

(8) そこで、三村は、その数分後に旧伸縮の犬釘の状態を見に行ったところ、旧伸縮部分の犬釘の抜取りが終了していない枕木は三本であり、原告らは、右犬釘の抜取り作業を懸命に行っていた。その後しばらくして、棚田助役が金田班長に対し、「門型六、七番の職員は旧伸縮の仕事を手伝ってもらえないか。」と言ったところ、金田班長が棚田助役に対し、旧伸縮に協力する職員は、これに一番近い門型七番の職員だけでよいのではないかと申し入れ、棚田助役はこれを了承した。ところで、棚田助役が右指示をした時には、原告らが実施していた旧伸縮部分の犬釘抜取り作業はほとんど終了し、最後の枕木一本につき犬釘の抜取りが行われている状態であった。したがって、他の門型担当の作業職員が棚田助役の右指示どおり旧伸縮部分の枕木の犬釘抜取り作業を手伝おうとしても、最後の一本の枕木に原告と浜岡の他に職員が加わって作業をする余裕はなく、無理にこれを実施することは、かえって非常に危険な状況であった。そこで、棚田助役も右状況を見て何も言わず、他に何ら指示も出さなかった。被告(国鉄)は、本件懲役処分の理由の中で、本件工事の事前の作業の打合せの段階で旧伸縮部分に隣接する三村を含む門型担当職員に対して、旧伸縮部分の仕事を手伝うようにと指示をしておいたにもかかわらず、これに従わなかった旨主張しているが、前記のとおり、右事前打合せの段階では、当局から右のような指示は全く出されていなかった。

(9) 原告は、黙々と最後の枕木一本の犬釘を抜くため努力をしていたが、右犬釘の頭の部分にバールの爪が掛かりにくく、結局いくら努力してもこれを抜くことはできなかった。その際、これを見ていた外部の下請業者が、右犬釘の頭の部分を触ったうえ、「これはガス切断しかない。」と言ったので、原告は金田班長と棚田助役の承諾を得て、ガス切断を右業者に頼むことにした。右業者はガス切断用の道具を持参し、右犬釘の頭の部分を切断したので、原告らはようやく最後の犬釘を外すことができた。このようにして、犬釘抜取り作業が終了したのが、同日午前一〇時四九分であった。

(10) その後、レールの更換をして新レールを枕木に固定する作業が開始され、原告らは旧伸縮部分の枕木に犬釘を打ちつける作業を、三村らはPCボルトの締結作業をそれぞれ懸命に行っていた。

ところで、被告(国鉄)は、本件懲戒処分の事由の中で、閉鎖工事終了予定時刻の同日午前一一時七分が近づいてきた頃、棚田、国広、宮木の各助役が金田班長に六番、七番の門型担当職員に犬釘打ちの作業に協力するように指示した際、三村が「わしらは旧伸縮の仕事をするようになっとらん。」等と怒鳴り、原告も三村と共に棚田助役らに迫った旨主張している。しかし、棚田助役が金田班長に対して旧伸縮の犬釘打ち作業を他の六番、七番の門型担当職員に手伝うように指示したことは全くない。すなわち、棚田助役が金田班長に対し、右指示を出したとされる同日午前一一時七分頃は、他の六番、七番の門型担当職員はPCボルトの締結作業を継続中であったから、これらの者がその本来の担当作業を放棄して旧伸縮の作業を手伝うことは全く不可能な状況であり、しかも、犬釘打ち作業を懸命に行っていた原告が、棚田助役に迫っていく時間的余裕など全くなかったのである。

また、被告(国鉄)は、本件懲戒処分の理由の中で、この後に棚田助役が直接三村に対して犬釘打ちを命じたが、同人がこれに従わなかったので、棚田助役らがハンマーで犬釘打ちを始めたところ、三村が近寄って来て「止めろ。管理者が何をしとるんなら。」などと怒鳴りながら、ハンマーの降り下ろしのできない位置に立ってこれを妨害した旨主張しているが、これも事実に反する。三村は、レール更換の後、同日午前一一時四分から同一一時二〇分までの間、PCボルトの締結作業と、その付帯作業であるパット直しや軌間整正を行っていたのであり、同日午前一一時七分頃はこれらの作業を継続中であったから、自己の担当作業を放棄して旧伸縮の現場まで出向く必要も、時間的余裕もなかったのである。

(11) 原告は、右犬釘打ち作業を同日午前一一時三〇分過ぎに終え、三村もレール締結作業を同一一時二〇分頃に、終え、工具、機械類の片付けに着手した。本件の線路閉鎖工事は、計画の予定時刻から二一分遅れ、同日午前一一時二八分に終了した。

(12) 右のように本件工事が遅れたのは、次のとおり被告側に責任がある。

ア 全作業員が集合したのが、当初の予定から一五分も遅れ、準備作業、本作業に時間的なしわ寄せが生じた。

イ 被告側が本件工事の当日までに旧伸縮部分の犬釘の味きき作業をしておかなければならなかったのに、これを怠っていた。そのため、原告らが担当する旧伸縮部分の犬釘抜き作業に非常に手間取り、ガス切断せざるを得なかった。

ウ 原告が旧伸縮部分の最後の枕木一本の犬釘抜き作業を行っていた際、他の七番の門型担当職員が、協力できない状況であったにもかかわらず、棚田助役は右職員らに対し原告の右作業につき、協力する旨の不適切な指示を出した。

エ 本件のように工事全体が遅れている場合には、被告側としては、本来であれば犬釘抜き作業が終った同日午前一〇時五〇分の時点で、作業職員全員に対し、犬釘打ちとPCボルトの締結を枕木二本に一本の割合で行い、予定どおり、又はできるだけ速やかに閉鎖工事を終了し、列車を一分でも早く通過させるべきであったのに、このような指示を出すことを怠り、同日午前一一時一八分になって初めてこのような指示を出し、しかも、右指示は瀬戸保線支区に出されただけで、全作業職員には通知されていない。

オ 被告が列車を一分でも早く通過させようと真剣に努力していたならば、処女列車を工事現場に最も近い岡操駅に停車させておくのが通常であるのに、あえて工事現場から遠い岡山駅に停車させていたため、岡山駅と岡操駅間の列車運行時間が無駄になり、処女列車の通過がこの時間だけ遅れてしまった。

カ 被告(国鉄)は、本件の閉鎖工事の遅れを取り戻すために何ら努力をせず、また、同日午前一〇時三〇分から四〇分頃の間に、既に工事が一五分から二〇分遅れる旨を岡山鉄道管理局に通知しているが、この時点は閉鎖工事の途中であるのに、このような早い段階で右通知をしたのは、むしろ右工事の遅れを積極的に容認していたと解さざるを得ない。

(三) 国鉄当局は、国鉄分割民営化に反対する国労に対し、様々な弾圧を加えて国労を弱体化しようとしたが、この国労弱体化攻撃については、原告の勤務する岡山保線区が、当局側の労働組合に対する干渉としての「職場総点検」の「全国最重点職場」と指定され、昭和五七年五月には「職場規律の確立」と称し、「実態の伴わない手当ては支給しない。支区における協議は行わない。突発休は認めない。雨天時の屋外作業も実施する。」など二五項目にわたり国鉄の労働者が職場で長年にわたって築き上げてきた権利、慣行をすべて破棄してきた。そして、同年一二月に現場協議協定が破棄されて以来、過酷な弾圧が続き、原告の所属する岡山保線区でも、国鉄本社、岡山鉄道管理局、岡山保線区が一体となって保線現場に直接乗り込み、現認体制(不当な組合活動の干渉に抗議した国労組合員に対して、管理者による「現認」と称するものに基づき、処分、昇給の延伸などの不利益な取扱をするもの)を完璧に実施し、現場当局相互間で互いに監視するなどして弾圧が行われたのである。本件は、このような背景の下に、国労組合員である原告を嫌悪し、国労を弱体化する目的で行われたものである。

(四) 仮に、原告の言動が多少穏当を欠き、暴言と評価されることがあったとしても、前記のとおり、本件工事の遅れと列車の遅れの主たる原因は、管理者である助役らの落度に起因しているのであるから、本件懲戒処分は著しく不公平で、重きに失しているので、裁量権の濫用による無効とすべきである。

4  賃金支払請求権

原告は、被告(国鉄)から昭和五八年三月分の賃金として一八万〇六八〇円、同年四月分の賃金として一八万一一〇四円、同年五月分の賃金として一六万九〇五八円の支払を受けていた。そうすると、原告は、本件懲戒処分による停職期間中、右三か月分の平均賃金である一七万六九四七円の支払を毎月受けることができたはずであるのに、これを受けることができなかったのであるから、右平均賃金に右停職期間の四か月を乗じた七〇万七七八八円から、右停職期間中に受領した合計金額二〇万三九五六円を差し引いた五〇万三八三二円が、被告の原告に対する未払賃金となる。

5  よって、原告は被告に対し、本件懲戒処分が無効であることの確認を求めるとともに、右未払賃金五〇万三八三二円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年一二月八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1(当事者)、2(本件懲戒処分の経緯)、3(一)(被告の主張する本件懲戒事由)の各事実は認める。

2  同3(二)(1)(本件工事の概要、原告と三村の担当作業等)の事実は認める。ただし、カ(工程)のうち、本作業(閉鎖工事)の時刻と主張されているのは列車間合の時刻であり、本作業(閉鎖工事)は列車間合の時刻中の午前一〇時一七分から同一一時七分までの間に実施される予定であった。また、本件工事の作業員の編成は、総指揮、安全専任者、工事監督者、作業責任者が各一名、連絡記録係、列車見張が各三名、門型係は、第一班ないし第三班各一〇名に第一班、第二班の班長各一名を加えた合計三二名、旧伸縮継目係が二名、新伸縮継目係が六名、継目係が四名、徐行信号機係が四名、自動車運転者機械係が九名、救護班が一名、予備員が六名となっていたが、本件工事の当日に右予備員六名のうち三名が休んだので、総員七一名で実施された。さらに、木製枕木は一一本であり、旧伸縮に関する作業は原告と浜岡の二人だけで分担する作業ではなく、旧伸縮部分の両側で作業する六番の門型係の三村と竹原、七番の門型係の香西と平松とが共に従事する作業であり、六番と七番の門型との間には、他の門型間の枕木がすべてボルトで締結されたPC枕木であるのと異り、PC枕木の他に、犬釘で締結された木製枕木があるため、その犬釘に関する作業には労働量を多く必要とすることから、原告と浜岡が右各門型係の作業に対する増員として前記作業に加わることになっていたものである。

3  同3(二)(2)(旧伸縮担当作業職員の削減)の事実のうち、本件工事では二名の作業職員が旧伸縮作業を担当する旨計画されたこと、従来の工事では、旧伸縮作業はすべて四名の作業職員が担当しており、本件工事において、初めて旧伸縮の作業職員が二名に削減されたこと、このことを知った原告の上司である瀬戸支区作業長の金田班長が、昭和五八年三月七日、九日に行われた本件工事の事前打合せの席上で、棚田助役らに対し、従来どおり四名にして欲しい旨申し入れたが、聞き入れられず、右旧伸縮作業は二名で行われることになったことは認めるが、その余の事実は否認する。

なお、岡山保線区では、従来の工事において旧伸縮継目係として四名を配置していたが、旧伸縮継目係は、本来隣接の門型係の行う作業に対する増員であって、門型係と共同作業するものであるから、旧伸縮継目係が四名では作業量に多分の余裕があったうえ、福山保線区では、昭和五〇年から本件工事と同様の工事を旧伸縮継目係二名で実施しても何らの支障が生じなかったので、岡山保線区でも二名にしたものである。そして、本件工事以後、これと同様の工事を旧伸縮継目係二名で実施しているが、支障は生じていない。

さらに、本件工事に関する同年三月七日の事前打合せの席上で、棚田助役が、旧伸縮継目係を二名とし、これに隣接する門型係四名が右二名と共同作業するとの指示をしたところ、その席上、金田班長から、右二名とすることに異議が述べられた。その後、同月九日、金田班長が原告らを含む瀬戸支区の全職員に対し、棚田助役の右指示を伝えたところ、原告から、旧伸縮継目係が二名になることについて、「労働強化だ。時間内に作業ができなかったらどうするか。」などの異論ないし質問が出された。また、棚田助役は、同月一〇日、金田班長に対し、同月七日の指示どおり本件工事を実施する旨電話で伝えたところ、金田班長は、旧伸縮継目係は二名で行うが、隣接の門型係は協力しないと言っている旨報告したので、棚田助役は金田班長に対し、隣接の門型係は旧伸縮継目係と共同作業させるよう再度指示した。

4  同3(二)(3)(現場到着の遅れ等)の事実のうち、同年三月一一日午前九時一五分に全作業職員が現地に集合する予定であったが、岡山支区の作業職員の到着が遅れたため、全作業職員が現地にそろったのが、予定時刻から一五分遅れた同日午前九時三〇分であったことは認めるが、その余の事実は否認する。岡山支区の作業職員らの現地集合が遅れたのは、交通渋滞によるものではなく、原告と同じ国労岡山地方本部第一支部施設分会所属の組合員で、岡山支区の作業職員を現場に運ぶマイクロバスの運転係であった藤井良男が、マイクロバスの仕業点検と称して不必要な時間をかけ、岡山支区庁舎からの出発を遅らせたためである。

5  同3(二)(4)(準備作業の経過)の事実のうち、全作業職員の点呼が終了した同日午前九時三五分から、右作業職員らがそれぞれ担当する準備作業を開始したが、この段階で、右準備作業の着手時期が予定より二〇分遅れていたこと、準備作業とは、旧伸縮係では、受持ちの枕木のうち、三本に一本の割合で犬釘を抜き、他の枕木の犬釘が本作業で抜けるか否かを確認するため、実際に犬釘を浮かしてみて再び打ち込むといういわゆる味きき作業を実施することをいい、門型係では、同様に受持ちの枕木のうち、三本に一本の割合でPCボルトを抜き取り、他の枕木のPCボルトは緩めて軽く締結する作業を実施することをいうことは認めるが、その余の事実は否認する。準備作業は予定よりも二〇分遅れて開始されたが、原告の準備作業も含めて、同日午前一〇時一〇分頃(予定よりも約四分早い。)には終了し、その後、休憩して本作業に着手した。原告は、右準備作業の際、本来の味きき作業は、犬釘を一旦浮かして再度打ち込むことによって犬釘を緩める作業であるのに、犬釘を容易に抜き取れないように打ち込んでいた。

6  同3(二)(5)(準備作業が遅れた原因)の事実のうち、いわゆる味きき作業が、本件工事現場を受け持つ岡操支区において、当日の作業前に一旦犬釘を浮かして再度打ち込む作業を含むことは認めるが、その余の事実は否認する。本件工事については、味きき作業は合計三回行われている。一回目、二回目の味きき作業は、当初本件工事が昭和五七年一二月一七日に実施される予定であったため、同年一〇月一日、同年一一月八日に行われ、右味きき作業の効果は、本件工事の当日である昭和五八年三月一一日まで持続していたが、更に念のため、本件工事の前々日である同月九日に三回目の味きき作業を実施したものである。

7  同3(二)(6)(本作業の開始)の事実のうち、同日午前一〇時一〇分過ぎに旧伸縮の準備作業が終了し、続いて線路閉鎖工事が開始され、本工事が開始されたこと、そこで、原告が旧伸縮の本作業(旧伸縮部分のすべての枕木に打ちつけられた犬釘を抜き取り、レール更換をして再び犬釘を打ちつける作業)に着手し、三村が門型の本作業に着手したことは認めるが、その余の事実は否認する。本作業である線路閉鎖工事が開始された時刻は、同日午前一〇時一九分ではなく、同一〇時一七分であり、また、門型の本作業には、PC枕木のボルトに関する作業の外に、木製枕木の犬釘に関する作業も含まれていた。

8  同3(二)(7)(同日午前一〇時三〇分頃の本件工事の状況)の事実のうち、午前一〇時三〇分過ぎには、三村は、同人らが担当しているPCボルトの締結装置の撤去を終了し、次に予定されていたレール更換ができる態勢で待機していたが、この時点では、原告らの担当する旧伸縮の犬釘の抜取り作業が終了していなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。犬釘抜取り作業が終了していなかったのは、原告が故意に犬釘抜取り作業を遅くし、また、右作業を共同して行うべき三村らの門型係が、右作業を全く行わなかったためである。右時刻頃における犬釘抜取り作業は、予定の三分の一程度しか終了していなかった。

9  同3(二)(8)(棚田助役の指示等)の事実のうち、棚田助役が金田班長に対し、「門型六、七番の職員は旧伸縮の仕事を手伝ってもらえないか。」と言ったこと、本件懲戒処分理由の中で、本件工事の事前の作業の打合せの段階で旧伸縮部分に隣接する三村を含む門型担当職員に対して、旧伸縮部分の仕事を手伝うようにと指示をしておいたにもかかわらず、これに従わなかった旨主張していることは認めるが、その余の事実は否認する。三村らの門型六番、七番の作業職員四名が、同日午前一〇時三〇分頃にPC枕木のボルトの取外し作業を終了したのに、犬釘抜取り作業を眺めているだけでこれに従事しようとせず、しかも、犬釘抜取り作業は、予定の三分の一程度しか終了していなかったので、棚田助役は、同日午前一〇時三五分頃、金田班長に対し、六番、七番の門型係作業職員が犬釘抜取り作業をするように指示することを命令するとともに、自らも直接右作業員らに同様の指示をした。棚田助役は、前記のとおり、旧伸縮継目係が従来の四名から二名になったことから、本件工事の打合せの席上等で、再三同様の指示をしていた。しかるに、棚田助役の右作業現場での指示に対し、原告と三村は、「わしらは協力はせんのだ。別々にするのだ。脇からガチャガチャ言うな。黙っとれ。」等と怒鳴り返し、さらに、他の門型六番、七番の作業員三名が、犬釘抜取り作業に着手しようとしたところ、三村が、「わしらはせんのだ。」と怒鳴って妨害した。

10  同3(二)(9)(犬釘の頭部のガス切断等)の事実のうち、犬釘の頭部を外部の下請業者がガス切断して犬釘を外したこと、犬釘抜取り作業が終了したのが、同日午前一〇時四九分頃であったことは認めるが、その余の事実は否認する。なお、ガス切断した犬釘は、一本ではなく、二本であった。さらに、本来、犬釘抜取り作業は、一本当たり平均三〇秒位で終了するのに、同日午前一〇時一七分頃に開始された本作業が同日午前一〇時五〇分頃までかかり、二本の犬釘を前記のとおりガス切断しなければならなかったのは、原告らが他の門型係作業職員の犬釘抜取り作業を暴言によって妨害したうえ、原告が味きき作業に見せかけて簡単に抜けないように強く打ち込んだ犬釘があったからである。

11  同3(二)(10)(本作業の継続、懲戒事由の不存在等)の事実のうち、犬釘抜取り作業の後、レール更換をして新レールを枕木に固定する作業に着手したこと、右作業では、旧伸縮継目係は木製枕木に犬釘を打ちつけ、門型係はボルトをPC枕木に締結するが、原告は犬釘打ちを、三村はボルトの締結を行っていたこと、被告(国鉄)が、本件懲戒処分において、原告主張の懲戒事由を主張したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告と三村が右作業を懸命に行っていたことはない。

12  同3(二)(11)(本件工事の終了)の事実のうち、本件の線路閉鎖工事が予定時刻から遅れ、同日午前一一時二八分に終了したことは認めるが、その余の事実は否認する。

13  同3(二)(12)のア、イ、ウの各事実は否認する。

エの事実は否認する。枕木三本に二本の割合(二本に一本の割合ではない。)で作業を行う指示は、「二分の一作業指示」と呼ばれるもので、棚田助役が、同日午前一一時五分頃、右指示を金田班長にしたのは、原告と三村の行為によって犬釘打ち作業が遅れ、列車の徐行解除時刻の午前一一時一八分が近づいていたためである。この当時は、犬釘打ち作業が遅れていたのみで、ボルト締結作業は遅れていなかったことから、右指示を全作業職員に出す必要はなく、金田班長に犬釘打ち作業のみについて指示すれば足りたものである。

オの事実のうち、処女列車を岡山駅に停車させていたことは、認めるが、その余の事実は否認する。右列車は、旅客列車であって、旅客取扱設備のない貨物列車専用駅である岡操駅に停車させることは、旅客に不安を与えるうえ、万一旅客に急病人が出た場合などの処置に支障があるので、禁止されていることから、岡山駅に停車させていたものであり、これが通例の処置でもある。

カの事実のうち、本件工事が一五分から二〇分遅れる旨を岡山鉄道管理局に通知したことは認めるが、その余の事実は否認する。右通知は、午前一〇時三〇分ないし四〇分頃にしたものであるが、それは、同一一時一二分に列車間合が終了し、同一一時一八分に列車徐行解除の計画であったのに、本件閉鎖工事が右終了予定時刻に終了しないことが予測されたので、危難を避けるために、右通知をせざるを得なかったものである。

14  同3(三)(本件懲戒事由の不存在等)の事実は否認する。

原告と三村は、本件工事における旧伸縮継目係の作業職員の数が、従前は四名であったのに、二名に減員されたことを労働強化であると考え、右減員によって工事の遅れが生じることを現実に見せて、右減員措置を撤回させようとした。そこで、作業職員の現地集合の時刻を遅らせようとして、原告らと同じ岡山施設分会に所属する藤井良男にマイクロバスの出発を遅らせ、これによって準備作業の開始を遅らせたうえ、準備作業においても、原告が味きき作業を装って犬釘の抜取りが困難になるよう打ち込み、更に、本作業の閉鎖工事において、本件懲戒事由に該当する行為に及んだものである。

また、原告は、本件以前から、職場において上司に対し、本件懲戒事由と同様の言動をしていた者であり、右言動のうち記録に残っているものは、次のとおりである。すなわち、原告は、昭和五二年八月一一日、瀬戸支区での始業点呼に際し、「おいー支区長、この前は作業に関係がないと言ったが、今日は作業に関係があるぞ。はっきりせえー、あほー。」「支区長、おめー差別することを明らかにせえー。」「まだ朝の点呼だぞ。しっかり回答せえーよー。」「朝の点呼だぞ。はっきりせえー。打ち切るとは何だぁー。」との発言をし、昭和五七年一二月三日、右支区での始業点呼に際し、「我々は組合として労働者として働いているのだ。」「一七時五分までに風呂から出られないときはどうするか。」との発言をし、さらに、同日、岡山保線区での始業点呼に際し、宮木助役の前に立ちふさがって、「今日の工事は、何時どこで話を決めたのなら。助役答えろ。労働条件についてわしらは何も聞いとらん。ロングおろしはせんぞ。馬鹿たれ。」との発言をし、同月九日、瀬戸支区での始業点呼に際し、「連絡できないでは済まない。また、家族に連絡し、家庭争議を起した者がいる。どうするのか。」との発言をし、作業助役のそばで「待て、待て。」と大声を出して作業指示を妨害している。

本件懲戒処分の当時、国鉄の財政危機と職場規律の乱れとを主な理由とする国鉄改革が要請されていたことからすると、本件懲戒処分は正当であったといわなければならない。

15  同3(四)(裁量権の濫用)の事実は否認する。本件懲戒処分は、停職四月であって、その懲戒事由からすれば、軽きに失するというべきものであるから、裁量権の濫用に該当しない。

16  同4(賃金支払請求権)の事実のうち、原告が昭和五八年三月、四月、五月に原告主張のとおりの金額の賃金の支給を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(当事者)、2(本件懲戒処分の経緯)、3(一)(被告の主張する本件懲戒事由)、3(二)(1)(本件工事の概要、原告と三村の担当作業等)の各事実(ただし、本作業の時間帯が午前一〇時一四分から同一一時一二分までであること、木製枕木が一二本であること、旧伸縮に関する作業は原告と浜岡の二名で担当することになっていたことは除く。)及び本件工事では二名の作業職員が旧伸縮作業を担当する旨計画されたこと、従来の工事では、旧伸縮作業はすべて四名の作業職員が担当しており、本件工事において、初めて旧伸縮の作業職員が二名に削減されたこと、このことを知った原告の上司である瀬戸支区作業長の金田班長が、昭和五八年三月七日、九日に行われた本件工事の事前打合せの席上で、棚田助役らに対し、従来どおり四名にして欲しい旨申し入れたが、聞き入れられず、右旧伸縮作業は二名で行われることになったこと、同年三月一一日午前九時一五分に全作業職員が現地に集合する予定であったが、岡山支区の作業職員の到着が遅れたため、全作業職員が現地にそろったのが、予定時刻から一五分遅れた同日午前九時三〇分であったこと、全作業職員の点呼が終了した同日午前九時三五分から、右作業職員らがそれぞれ担当する準備作業を開始したが、この段階で、右準備作業の着手時期が予定より二〇分遅れていたこと、準備作業とは、旧伸縮係では、受持ちの枕木のうち、三本に一本の割合で犬釘を抜き、他の枕木の犬釘が本作業で抜けるか否かを確認するため、実際に犬釘を浮かしてみて再び打ち込むといういわゆる味きき作業を実施することをいい、門型係では、同様に受持ちの枕木のうち、三本に一本の割合でPCボルトを抜き取り、他の枕木のPCボルトは緩めて軽く締結する作業を実施することをいうこと、同日午前一〇時一〇分過ぎに旧伸縮の準備作業が終了し、続いて線路閉鎖作業が開始され、本工事が開始されたこと、そこで、原告が旧伸縮の本作業(旧伸縮部分のすべての枕木に打ちつけられた犬釘を抜き取り、レール更換をして再び犬釘を打ちつける作業)に着手し、三村が門型の本作業に着手したこと、午前一〇時三〇分過ぎには、三村は、同人らが担当しているPCボルトの締結装置の撤去を終了し、次に予定されていたレール更換ができる態勢で待機していたが、この時点では、原告らの担当する旧伸縮の犬釘の抜取り作業が終了していなかったこと、棚田助役が金田班長に対し「門型六、七番の職員は旧伸縮の仕事を手伝ってもらえないか。」と言ったこと、本件懲戒処分理由の中で、本件工事の事前の作業の打合わせの段階で旧伸縮部分に隣接する三村を含む門型担当職員に対して、旧伸縮部分の仕事を手伝うようにと指示をしておいたにもかかわらず、これに従わなかった旨主張していること、犬釘の頭部を外部の下請業者がガス切断して犬釘を外したこと、犬釘抜取り作業が終了したのが、同日午前一〇時四九分頃であったこと、犬釘抜取り作業の後、レール更換をして新レールを枕木に固定する作業に着手したこと、右作業では、旧伸縮継目係は木製枕木に犬釘を打ちつけ、門型係はボルトをPC枕木に締結するが、原告は犬釘打ちを、三村はボルトの締結を行っていたこと、被告(国鉄)が、本件懲戒処分において、原告主張の懲戒事由を主張したこと、本件の線路閉鎖工事が予定時刻から遅れ、同日午前一一時二八分に終了したこと、処女列車を岡山駅に停車させていたこと、本件工事が一五分から二〇分遅れる旨を岡山鉄道管理局に通知したことは当事者間に争いがない。

二  前項の当事者間に争いのない事実に、(証拠略)を総合すれば、以下の事実が認められ、(証拠略)のうち右認定に反する各部分及び右認定に反する(人証略)はいずれも信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  昭和五七年当時、国鉄当局は、国鉄再建をめざして経営改善計画を実施してきたが、その一貫として、職場規律の確立を図るため、当時の国鉄総裁は、同年三月五日付で「職場規律の総点検及び是正について」、同年九月一六日付で「職場規律の総点検の再実施及び是正の促進について」、同月二一日付で「職場規律総点検の再実施について」とそれぞれ題する通達を出した。

岡山保線区においても、国鉄当局の右方針に基づき、岡山保線区長が同年五月一七日付で同支区の職員に対し、実態の伴わない手当等の支給の廃止、いわゆるヤミ休暇等の廃止、勤務時間中の組合活動の原則的禁止、いわゆる突発休の自粛等を内容とする「職場規律の確立について」と題する指示を出した。さらに、国鉄当局と現場作業員等がその勤務条件等について協議するいわゆる現場協議制が同年一一月末で廃止された。このような国鉄当局の方針に対し、原告と三村が所属する国労岡山地方本部は、従来の労働慣行を破るもので、労働強化につながるなどとして強く反発していた。

(2)  岡山保線区では、山陽本線下り線の岡操駅、庭瀬駅間のうち、九〇〇メートルの区間について、線路強化のため、四回に分けてレール更換を実施することになった。このうちの一九九メートルの区間については、当初、昭和五七年一二月一七日に更換工事を実施する予定になっており、その予定では、右工事に従事する作業職員は、旧伸縮継目(温度変化に伴うレールの伸び縮みに対応するレールの継目部分について、レール更換後には、右継目部分がなくなるもの)担当の作業職員四名を含む七九名となっていた。しかし、右工事は、労働時間の延長(いわゆる超過勤務)が必要であり、その実施予定日までに労働基準法三六条の協定が締結できなかったため、右工事は、昭和五八年三月一一日に延期された。

(3)  本件工事を計画した国広助役は、保線作業に従事してきた自らの経験に加え、旧伸縮の作業が他の作業の二分の一程度の時間で終了しているのを実際に現場で見ており、倉敷、福山の両保線区では、岡山保線区とは施工方法が異なるものの、旧伸縮の作業を二名ないし零で実施していることから、当初計画された作業職員数は過剰であると考え、旧伸縮作業を伴う岡山保線区内の三、四箇所の工事現場に自ら赴き、必要な資料を収集し、右資料に基づいて本件工事の各作業の所要時間について計算した結果、旧伸縮担当の作業職員を当初の計画より二名削減しても、門型(レールを吊り上げる持ち運びのできる小型のクレーン)六番、七番の作業職員と共同作業をすることによって、本件工事は十分予定時間内に終了できるとの結論に達した。

(4)  そこで、岡山保線区の当局は、本件工事を七一名の作業職員で実施することにし、昭和五八年三月七日、岡操支区と本件工事現場において、各支区の作業長らに対し、本件工事の内容を説明したが、その際、旧伸縮継目係を二名としているので、これに隣接する門型係四名が協力して作業するよう指示した。これに対して、旧伸縮を担当する瀬戸支区の作業長である金田班長から、旧伸縮の作業職員が四名から二名に削減されている点について質問が出たので、棚田助役は、一人当たりの作業量に余裕があるので、旧伸縮を二名で行うことは可能であり、犬釘は当日までに抜きやすい状態にしておく旨答えた。しかし、金田班長はこれに納得せず、瀬戸支区に帰って作業職員らに説明ができないなどと述べ、棚田助役は、旧伸縮を二名で行うことについての協力を要請した。その後、同月九日、棚田助役は、瀬戸支区の宇野助役に対し、同月七日の打合せどおりに実施するよう金田班長に伝えることを電話で連絡し、同月一〇日には金田班長に対し、直接電話でその旨を要請した。これに対して、金田班長は、瀬戸支区の作業職員が旧伸縮を二名のみで行い、門型係がこれに協力しないと言っている旨返答した。

また、瀬戸支区では、同月九日、同支区の難波支区長と柳計画助役が同支区の作業職員に対し、旧伸縮を二名で実施する旨説明したが、原告を含む同支区の作業職員らから、二名では無理であるとの意見が出た。

ところで、本件工事は、前記のとおり、当初昭和五七年一二月一七日に実施されることになっていたことから、これに備えて、同年一〇月一日と同年一一月八日に、旧伸縮部分に打ち込まれている犬釘を実際に浮かしてみて再び打ち込むいわゆる味きき作業が行われ、また、本件工事の二日前である昭和五八年三月九日には、PCボルトを緩めて油をつけ再び締結する味きき作業が行われた。

(5)  本件工事計画の概要は、次のとおりであった。

ア  工事名称

山陽本線岡操・庭瀬駅間下りロングレール更換工事

イ  工事目的

五〇キログラムレールから六〇キログラムレールに更換

ウ  工事間合

九二七M列車から一〇三五M列車(午前一〇時一四分から同一一時一二分)

エ  列車徐行

四三七M列車から三三九M列車(午前九時一六分から同一一時一八分)

オ  信号関連 有

カ  工程

午前九時一五分 現地集合、点呼列車徐行

〈省略〉

同一一手時四五分 現地解散

キ  任務分担

保線区岡操支区 二二名

同岡山支区 一四名

同瀬戸支区 一六名

同和気支区 一九名

総作業職員数 七一名

なお、本件工事の作業職員の編成は、総指揮、安全専任者、工事監督者、作業責任者が各一名、連絡記録係、列車見張が各三名、門型係は、第一班ないし第三班各一〇名に第一班、第二班の班長一名を加えた合計三二名、旧伸縮継目係が二名、新伸縮継目係が六名、継目係が四名、徐行信号機係が四名、自運者機械係が九名、救護班一名、予備員六名の合計七四名となっていたが、本件工事の当日に右予備員六名のうち三名が休んだので、合計七一名で実施された。なお、本件工事には下請業者等も参加しており、これらの者を加えると、本件工事の総作業人員は八五、六名であった。

(6)  原告は旧伸縮係に、三村は門型係第二班にそれぞれ所属し、門型六番を作業分担することになっていた。原告の担当する旧伸縮の作業は、原告と浜岡の二名が、伸縮継目部分の約七・三五メートルにわたって敷設された一二本(又は一一本)の枕木の一本毎に、一本のレールの外側に二本、内側に一本の割合で打ち込まれている犬釘を抜き取ってレールを更換し、更換後のレールの外側と内側に一本ずつ犬釘を打ち込んでレールを固定するものであった。また、三村は竹原と二名で、岡操駅から数えて六番目の門型を担当しており、一つの門型は、約一五メートルのレール部分を担当し、その間に敷設されたPC枕木の一本毎に、一本のレールの外側と内側に一本ずつ締結されたボルトを取り外してレール更換をし、更換後のレールの外側と内側を一本ずつボルトで締結する作業であった。なお、右各作業の後、工具等の後片付けなどを行う、いわゆる跡作業が行われて本件工事が終了することになっていた。

(7)  本件工事当日の同月一一日午前七時三五分頃、瀬戸支区では、本件工事の職員点呼が行われたが、右作業職員の中から、旧伸縮が二名削減されたことについて、前記同月九日の同支区における難波支区長らからの説明の際に出たのと同様の質問が出された。しかし、出発予定時間になったので、同支区の作業員らは、同支区の職員の運転するマイクロバスで本件工事現場に出発したが、右マイクロバスの運転係職員が、仕業点検と称して不必要に時間をかけたため、計画予定時刻よりも約一五分遅れた同日午前九時三〇分頃、右現場に到着した。

さらに、本件工事現場では、同日午前九時三〇分頃に点呼が行われたが、その際、原告らは、点呼が遅れたことなどについて苦情の声を上げていた。

(8)  本件工事現場での点呼が終了した後、午前九時三五分頃から準備作業が開始された。右準備作業とは、PC枕木についてはレール一本当たり二本のボルトで締結されているうちの一本を抜き取り、木製枕木についてはレール一本当たり三本の犬釘が打ち込まれているうちの一本を抜き取るなどの作業であるが、旧伸縮係の原告と浜岡は、同人らの担当であった木製枕木に関する準備作業が終了していなかったものの、他の作業職員が午前一〇時一〇分頃までに準備作業を終了して休息に入ったので、原告と浜岡も右準備作業を中断して休息した。なお、本件工事の現場責任者である助役らは、原告と浜岡が他の作業職員と同様に休息していたことから、旧伸縮の準備作業も終了したものと誤解していた。

(9)  その後、同日午前一〇時一七分に九二七M列車が本件工事現場を通過したので、直ちに本作業(閉鎖作業)が開始され、午前一〇時三〇分頃までにPCボルトの抜取り作業は完了したが、この頃、国広助役が旧伸縮継目付近に赴いたところ、犬釘の抜取り作業はまだ全体の三分の一程度しかできておらず、原告と浜岡が作業を継続しているのを発見した。このため、国広助役は、午前一〇時三五分頃、このままでは本件工事が遅れ、列車ダイヤに影響を与えることになると判断し、棚田助役に対し、既にPCボルトの抜き取り作業を終えているのに犬釘抜取り作業をながめているだけの門型六番、七番の四名の作業職員が犬釘抜取り作業に協力するよう金田班長に対して指示する旨命じた。そこで、棚田助役は、右の命令どおり金田班長に指示するとともに、自らも右四名に対して作業に協力するよう指示した。右指示の直後、原告と三村が棚田助役に近寄り、三村が、「わしら伸縮するようになっとらんのじゃ。わしら伸縮せんのじゃ。門型はだれがやるんなら。」と怒鳴り、原告が、「協力はせんのじゃ。わしら別々にやるんじゃ。助役、脇からガチャガチャ言うな。」と怒鳴ったため、犬釘抜取り作業を始めようとした他の門型係作業職員は、右作業に協力しなかった。

その後も、原告と浜岡の二名だけが旧伸縮の犬釘抜取り作業を続けたが、最後の二本の犬釘については、強く打ち込まれていたため、バール(犬釘を抜くための金てこ)の爪を犬釘に引っかけて抜くことができなかった。そこで、更換後の旧レールを切断するためにガス切断器を本件工事現場に持参していた下請業者に対し、右ガス切断器で右犬釘を切断するよう工事責任者が急拠依頼し、右犬釘をガス切断してもらった結果、午前一〇時五〇分頃に旧伸縮の犬釘の撤去が終了した。なお、犬釘を撤去する際には、事前に味きき作業をしておくので、ガス切断器を使用することは通常考えられず、本件工事においても、ガス切断器の使用は予定されていなかった。

ところで、犬釘抜取り作業中の午前一〇分四二分頃、国広助役は、それまでの作業の進行状況からみて、本件工事が二〇分位遅れると予想し、棚田助役に対して、岡操駅にその旨連絡するよう命じ、これを受けて棚田助役は電話連絡係を通じて岡操駅に連絡した。

(10)  その後、旧レールを撤去して新レールに入替えるレール更換作業を行い、新レールを枕木に固定するため、木製枕木については犬釘打込み作業が、PC枕木についてはボルト締結作業が午前一一時五分頃から行われたが、旧伸縮の犬釘抜取り作業が前記のとおり遅れたため、本件工事全体が遅れていた。そこで、国広助役は、このままでは列車ダイヤに影響を及ぼすことになると考え、棚田助役に対し、早く犬釘を打ち込むよう指示した。右指示を受けて、棚田助役は金田班長に対し、本件工事現場をできるだけ早期に列車の通過可能な状態にするため、犬釘を打ち込む枕木を一本飛ばしとするいわゆる二分の一作業を行うよう指示するとともに、自らも門型係の作業職員に対し、門型係の作業か済み次第、犬釘打ち作業に協力するよう指示した。右指示に対して、三村は、「犬釘打ちはわしらがすることになっとらん。何をガチャガチャ言いよんなら。」と大声で言い、原告は、「犬釘打ちはわしらだけでするんだ。ガチャガチャ言うな。」と大声で言ったことから、門型係の協力を得られなかった。そこで、列車ダイヤの遅れを回避するため、国広、棚田、宮木の各助役が自ら犬釘打ち作業をしていたところ、三村が門型六番の作業のみを終えたとして、後片付けのためいわゆるネコ車(一本のレール上を走行する小型のトロッコ)に本件工事で使用した器具類を乗せ、これを押して右助役らが犬釘打ち作業を行っている場所にさしかかった際、犬釘打ち作業中の国広助役の前に立ちふさがり、同助役に対し、「管理職が何をしよんなら。そんなことをするようにはなっとらん。」と大声で言って犬釘打ち作業を止めるよう要求した。そのため、国広助役は三村に対し、その場所から移動するよう要求したが、しばらくの間、三村が立ちふさがっていたので、国広助役は、犬釘打ち作業を一時中断せざるを得なかった。

その後、本作業は、予定時刻から二一分遅れた午前一一時二八分頃に終了し、引き続いて跡作業を行った後、午前一一時四五分に作業職員らは現地解散した。

(11)  本件工事の遅れにより生じた列車ダイヤの遅れは、次のとおりである。

(山陽本線)

三九六三列車(貨物列車)

岡操駅 二〇分遅延

三三九M列車(普通電車列車)

岡山駅 一七分遅延

試六八五三M列車(試運転電車列車)

東岡山駅 一七分遅延

二六三列車(貨物列車)

瀬戸駅 一一分遅延

四四七M列車(普通電車列車)

岡山駅 一・五分遅延

(伯備線)

八九七列車(貨物列車)

備中高梁駅 二一分遅延

一〇三五M列車(特急電車列車)

岡山駅 二〇分遅延

九八三列車(貨物列車)

石蟹駅 一三分遅延

九二四M列車(普通電車列車)

新郷駅 八分遅延

九九三列車(貨物列車)

岡操駅 六分遅延

九七三M列車(普通電車列車)

岡山駅 四分遅延

一〇三八M列車(特急電車列車)

足立駅 二・五分遅延

九二七M列車(普通電車列車)

布原信号場 二・五分遅延

(芸備線)

八六三D列車(普通気動車列車)

布原信号場 五分遅延

なお、本件工事の際、処女列車(一〇三五M列車)を岡山駅に停車させていたのは、同列車が特急電車列車のため、旅客駅でない岡操駅に停車させることは旅客に不安を与えるばかりでなく、旅客誘導案内の見地からも岡山駅に停車させることが好ましいし、国鉄内部では旅客列車を貨物専用駅等に停車させることを原則的に禁止していることによるものである。

(12)  被告(国鉄)は、同年四月二八日、原告と三村に対し、本件工事につき、「業務の執行を妨害し、責務を尽さず、よってその正常な運営に支障を生じさせたこと」を理由に日本国有鉄道法三一条に基づき、それぞれ停職四月の懲戒処分に付する旨決定した。これに対して、原告と三村は、本件懲戒処分に対する異議の申し立てを行い、これに基づいて弁明又は弁護の手続を行った後、同年五月二三日、原告に対して停職四月の懲戒処分を行い、同処分が確定した。

(13)  その後、岡山保線区では、本件工事と同様のレール更換工事を実施するについて、旧伸縮の担当作業職員は本件工事の場合と同様に二名で行れているが、列車ダイヤへの影響は全く生じていない。

三  右認定事実によれば、本件は、昭和五七年当時、国鉄当局が国鉄再建をめざした経営合理化の一貫として、本件工事の旧伸縮部分の作業職員を従来の四名から二名に削減し、これに近接する門型係が旧伸縮作業に協力するとの作業計画を作成したのに対し、原告らがこれを労働強化であるとして反発した過程で発生したものである。すなわち、本件工事の責任者である国広助役が、自ら保線作業に従事してきた経験、同助役が岡山保線区内の作業現場で現認した作業状況に基づいて収集した各作業の所要時間に関する資料、他の保線区における旧伸縮作業の実例を総合考慮した結果、旧伸縮作業については、二名の作業職員で実施しても、これに近接する門型係の作業職員四名が協力すれば、本件工事を十分予定時間内に終了することができるとの結論に達したので、本件工事の四日前に岡操支区と本件工事現場で各支区の作業長に対して右作業計画を指示したが、その際、旧伸縮作業を担当する瀬戸支区の金田班長から、右作業計画に対する異議が出たことから、重ねて同班長に協力を要請するとともに、本件工事の二日前に棚田助役から瀬戸支区の助役に電話をして同様の要請をし、本件工事の前日にも同支区の金田班長に電話で同様の要請をして、右作業計画の周知徹底をはかった。しかし、原告と三村らは、旧伸縮係を二名に削減し、門型係との共同作業とする右作業計画を労働強化であるとして強く反対し、右作業計画を変更しないのであれば、旧伸縮作業はあくまで二名で実施し、門型係はこれに一切協力しないとの方針で本件工事現場に臨んだ。そして、本件工事の当日、旧伸縮部分の犬釘抜取り作業が他の並行する作業に比較して大幅に遅れていたにもかかわらず、これに近接する門型係の四名の作業職員が傍観しているだけで右作業に協力しようとしなかったので、棚田助役が、事前に指示したとおり、右四名に対して犬釘抜取り作業に協力するよう指示したのに対し、原告と三村が、前認定のとおりの言動に及んだため、右四名の門型係の作業職員(三村を含む。)が、右指示に反して犬釘抜取り作業に協力しなかった。このようなことから、旧伸縮部分の犬釘抜取り作業が大幅に遅れたため、本件工事全体の遅れによる列車ダイヤの遅れを憂慮した国広、棚田の両助役が、右四名の門型係の作業職員に対して、レール更換後の門型係の作業が済み次第、旧伸縮部分の犬釘打ち作業に協力するよう指示したところ、原告と三村が、前認定のとおりの言動に及んだため、右四名(三村を含む。)が犬釘打ち作業に協力しなかった。このため、国広、棚田、宮木の各助役が自ら犬釘打ち作業を始めたところ、三村が国広助役の前に立ちふさがって作業を一時中断させた。このようにして、本件工事の本作業(閉鎖工事)が二一分遅れで終了したため、山陽本線、伯備線、芸備線の列車合計一四本に最高二一分から最低一・五分の遅れを生じさせた。

このような経過からすると、旧伸縮部分の作業職員の削減と、門型係の旧伸縮作業への協力を労働強化であると考えた原告が、三村と共に、本件工事責任者である各助役らの事前及び工事現場での指示に反し、判示の言動をして門型係の作業職員を旧伸縮作業に協力させなかったことが、本件工事全体の遅れを招き、これによって列車ダイヤに多大の悪影響を与えたことは明らかであり、本件懲戒処分の目的が国労の組織の弱体化にあったとも解されないから、結局、原告に対する本件懲戒処分は正当であるといわなければならない。

さらに、前認定の本件工事現場における原告と三村の判示言動に、鉄道事業の公共性、保線作業の重要性、本件工事の遅れが列車ダイヤに与えた影響の重大性に照らせば、本件懲戒処分が裁量権の濫用であるとも解されないので、この点に関する原告の主張も理由がない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石嘉孝 裁判官 安原清蔵 裁判官 太田尚成)

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